偶然の贅沢体験。サフィール踊り子で巡る“伊豆の踊子”の風景



東京駅での奇跡。プレミアムグリーン席との出会い
サフィール踊り子。その名の通り、サファイアのような深い青をまとった特急列車。
先頭車両のプレミアムグリーンは、まるでホテルのラウンジのような上質空間です。
11時ちょうど、ドアが閉まると同時に列車がゆっくりと動き出す。
運転席越しに前方の線路が見える、全面展望の特等席。
まさに“走る展望室”でした。
東京の街並みを抜け、やがて横浜の海がきらめき始める頃には、
もうすっかり旅のスイッチが入っていました。

先頭席からの全面展望、都会から海へ
都会の高層ビル群を駆け抜け、川崎を過ぎると次第に空が広がり、
窓いっぱいに光が射し込みます。
車窓に流れる景色は、まるで映画のようにめまぐるしく変わっていく。
鎌倉、藤沢、そして小田原を過ぎると、いよいよ伊東線への分岐点・熱海です。
プレミアムグリーンのゆったりしたシートに身を預けながら、
都会の喧騒を離れていく時間が、何よりの贅沢でした。


「カフェテリア」で味わう、走るダイニングの贅沢
さらに運良く、4号車「カフェテリア」の予約も取ることができました。
ここは、サフィール踊り子自慢の“現代版・食堂車”。
落ち着いた照明と木目調の内装が心地よく、車窓の海を眺めながら味わうランチはまさに非日常。
ただ、ひとつ笑ってしまった出来事が。
カフェテリアの座席がすべて窓側を向いているので、横浜駅のホームで立っている人とバッチリ目が合うんです(笑)。
少し気まずくもあり、でもそれすら旅のエピソードとして愛おしい瞬間でした。

伊豆半島といえば「伊豆の踊子」。文学の記憶をたどる旅
列車が伊豆半島へ入る頃、ふと川端康成の名作『伊豆の踊子』が頭をよぎりました。
若き学生が旅芸人一座と出会い、淡い情感の中で成長していく――そんな物語。
舞台となったこの伊豆の地は、いまも静けさと人の温もりが残っています。
車窓から眺める山々や渓谷、そして海沿いの集落。
どこか懐かしくて、心の奥に染み込むような風景でした。
まるで、自分があの物語の続きを生きているような錯覚にさえ陥ります。

石川さゆり『天城越え』を聴きながら
そしてもうひとつ、今回の旅を象徴する存在がありました。
それが、石川さゆりの名曲 『天城越え』。
実はこの曲、伊豆半島の中央部・天城山を舞台にしており、歌詞には「浄蓮の滝」「天城隧道」「わさび沢」など、まさに伊豆の地名が並びます。
列車が峠を抜けるたび、海が広がるたび、イヤホンから流れる石川さゆりの歌声が風景と重なっていく。
それはまるで、列車そのものが一つのドラマのように感じられました。
サフィール踊り子の静かな走行音と「天城越え」の艶やかな旋律。
この組み合わせは、きっと一生忘れないと思います。


伊豆急下田へ。そして“同じ席”で帰る旅
13時30分ごろ、終着の伊豆急下田に到着。
青い海と穏やかな空気に迎えられ、少しだけ駅前を散策。
しかし今回は宿泊の予定はなく、そのまま折り返しの14時15分発・サフィール踊り子2号で東京へ戻ることにしました。
しかも帰りの席は、偶然にも行きと同じ座席(プレミアムグリーン最後列)。
同じ景色のはずなのに、帰り道では光の角度も心の状態も違って見える。
それがまた、旅の不思議であり、醍醐味でもあります。


贅沢な時間は、意外と身近にある
約2時間半の鉄道旅。
静寂、景色、食事、そして音楽。
そのすべてが心を満たす時間でした。
サフィール踊り子のプレミアムグリーンは、確かに贅沢な席です。
けれど、そこに広がる体験――
“移動そのものが目的になる”ような時間を考えると、むしろ驚くほど手が届く贅沢だと感じます。
いま、食堂車が必要な理由がある
昔は新幹線や特急列車には、到着までの時間をゆったりと楽しむために、食堂車が連結されていました。
私が乗車した「サフィール踊り子」は、その現代版ともいえる存在です。名前こそ“カフェテリア”ですが、まさに食堂車の復活と言っても過言ではありません。
選択肢が増え、日々が忙しなく過ぎていく現代だからこそ、「心の余裕」や「時間の余裕」を感じられる旅のスタイルとして、食堂車はぴったりだと感じました。
これから、そんな旅の楽しみがもっと広がっていくといいなと思います。


そして、サフィール踊り子は――
そんな“伊豆の物語”を現代の車窓に映し出す、走る舞台のような列車でした。
偶然から始まったこの旅は、まるで一篇の小説のように、静かに心に残り続けています。
こんな素晴らしい体験が簡単に味わえるなら、人生一度は味わうべきです、私はそう思います。
ふとした瞬間の“偶然”が、思いがけない旅へと導いてくれることがあります。
先週の日曜日(11月9日)、東京駅でそんな出来事がありました。
午前10時50分。
本当は別の予定で出かけていたのですが、何気なく「えきねっと」を開いてみると、
11時発のサフィール踊り子1号――しかも一番先頭のプレミアムグリーン席に、奇跡的に空席がひとつだけ。
一瞬の迷いもなく、指が“予約する”を押していました。
ホームに向かうと、すでにサフィール踊り子が静かに待機していて、その青く輝く車体がまるで「今日は特別な日になる」と語りかけてくるようでした。
この日、私は偶然から始まった贅沢な鉄道旅で、
文学と音楽、そして伊豆の自然が響き合う、忘れられない時間を過ごすことになりました。